7・華の集い

――光に形があるとしたら、それはきっと。

昼休みの時刻だった。
城に仕える者にそういった時間が定められている訳ではない。
大体の者が、この時間帯に昼食を取ったり小休止を入れたりする。
そんな正午を数十分過ぎていた。
対外国との交易についての会議を終え、国王は自室に戻っている。
サファイア・ヴィクテルは紙の束をまとめて片づけると、会議室を出て扉を閉めた。
「サフォーっ!」
途端に、呼ばれる愛称と駆けてくる足音。
足元にしがみついてきたルビー・ラングデルドは、期待のこもった瞳で見上げてきていた。
「あらあら、どうしたの?エメラルドは?」
「今日はね、別のお仕事なの。だからルビーだけなんだよ」
「あら、じゃあここで何してるの?」
「サフォーを呼びにきたの!!」
「…私?」
「うん!!」
意図がよく解らず戸惑うサファイア。
階段を慌てて上ってくる音が聞こえて、止まった。
「ルビーちゃん、いきなり走っていっちゃうんだから…」
姿を現したユナ・カイトはサファイアと目をあわせるなり明るい笑顔で告げる。
「こんにちは、サファイアさん!」
「こんにちは。どうしたの?今日は何かあったかしら」
「いえ、そういう訳じゃないんです。あの、ですね」
「お茶会、だよねっ!」
どう切り出そうか迷っているようなユナを待たず、ルビーが続ける。
「お茶会?」
「はい、そうなんです。今、塔に集まっているんですよ。それで、サファイアさんもお誘いしたいっていうことで…」
「いろんなお菓子がたくさんあるんだよ!」
とにかく楽しそうなルビーを見ているだけで、サファイアの顔もほころぶ。
「サファイアさん、お仕事が忙しいかとも思ったんですけど、もしお時間があれば……」
「これから、食堂へ行って昼食にしようと思っていたところだったのよ。でも、私が行ってもいいの?」
「来てくれるんですか!!」
ユナの顔がぱっと明るくなった。ルビーが嬉しそうにサファイアの腕をつかむ。
周囲を歩く者が、見慣れない組み合わせの三人を不思議そうに見ていた。
「嬉しいね、ルビーちゃん」
「うん!!」
「それで、どれぐらい集まってるの?」
何気なく尋ねるサファイア。ユナとルビーが顔を見合わせて笑った。
「今日はですね」
「女の子のお茶会なんだよ!」

夏の花が咲き乱れる清楚な庭園が、窓の外に広がっていた。
大きな窓が開け放たれ、ほどよく涼しい風が吹き込んでくる。
木々の影を映し、風に揺れる白いテーブルクロス。
部屋の中央に置かれた大きなテーブルには、目にも鮮やかな菓子類が並んでいた。
クロスと同じ色をした紅茶のカップも、上品にお茶会を演出している。
真ん中には、庭から取ってきたと思われる花が飾ってあった。
テーブルを囲むのは、美しき塔の主とその騎士、“ヴェルファ”の少女に愉快な侍女。
「あっ、来て下さったんですか!」
サファイアを連れたユナとルビーが部屋の扉を開けると、ファリアが立ち上がって出迎えた。
「呼んで下さってありがとう。本当に、みんな揃ってるのね」
「ようこそいらっしゃいましたわ、サファイア様」
アクアマリンが、サファイアを席に招く。
どうやら彼女とファリアが、茶会の主催者のようだ。
ルビーの隣の席に、サファイアは腰を下ろす。
「サファイアさん、来られたんですね!」
「仕事があるかと心配していたんだ」
ムーンとジェイドが笑いかける。
どう呼びかけをしたらこの面々が集まるのかと疑問を持つような城の女性陣が、その部屋に揃っていた。

「最初は、今日仕事が無かった私がお菓子を作って塔に遊びに行くっていう約束をファリアさんとしていたんですよ」
そういえば、と、思い出したようにお茶会の動機を聞いたサファイアにユナが答えた。
「今回はユナさんがクッキーを焼いて下さるというから、私がケーキを作ったんです」
「私は、“ヴェルファ”のお菓子である団子など作ってお待ちしておりました」
ファリアとアクアマリンが続ける。サファイアは改めてテーブルに目をやり、、量も種類も幅広いお菓子を眺めた。
「私がここへ来る途中、ムーンに会ったんです。里帰りしててお土産にお菓子を持ってきたっていうから、私がそこで誘って…」
「ユナとムーンが来たときに、私が丁度城下町から帰ってきたんだ。途中に美味しそうな焼き菓子を売っている店を見つけて、お土産に買ってきた」
ユナとジェイドが苦笑したように告げ、つられて他も笑う。
「アンバーがお休みで、エメラルドがお仕事だから、ルビーもここに遊びに来たんだよ」
「…で、既に食べきれない量のお菓子が集まってしまった、という感じです」
「そうだったの。じゃあ、私も何か持ってくればよかったわね」
これ以上必要ないのは目に見えて明らかだったが、冗談交じりにサファイアも言った。
笑い声が、部屋に響く。
平和な昼下がりの部屋は、優しい光に照らされていた。