続・鶏伝説

今は昔…平和な王国の片隅の村外れに慎ましく暮らす羊飼いの三兄弟がおった。
長男は名をアンバーといい、村でも有名な喧嘩っ早い青年であった。
次男は名をエメラルドといい、働き者で人当たりの良い青年であった。
そして三男は名をルビーといい、村一番の臆病者の少年であった。
気質は違えど、三兄弟は仲良く生活しておったのだ。
ある朝、それはとても天気が良く、すがすがしい一日の始まりであった。
三兄弟の仕事は決まっており、エメラルドが羊に餌をやろうと家を出た。
すると、国を治める城のほうが何となく白みがかって見えるではないか。
不思議に思ったエメラルドは目をこすって、もう一度しっかりと城の方角を見据えた。
やはり、白い何かが城を覆い隠すように存在している。
それがどんどんと近付いて来るように思えて、エメラルドは立ち止まった。
その正体が何かを見極めねばならぬ、そう思ったのだ。
はっきりと、白は近付いてくる。勘違いなどではなかった。
その場から逃げ出したい恐怖に耐えながら、エメラルドは白を見据えた。
そうしているうちに、もの凄い速さで、何かがエメラルドの傍らを横切った。
「……鶏?」
振り返って見たそれは紛れもない鶏だった。
何故牧場に飼っていない筈の鶏が居るのか訝しく思っているうちに、一匹、また一匹と鶏がやってくる。
何が起こっているのかエメラルドが悟ったのはその直後だった。
もう一度、振り向く。
さっきよりも確実に近付いてきている白いものは、想像出来ないほど大群の鶏なのだ。
エメラルドは血相を変えて、家へと駆け戻った。
「兄上、ルビー、外に鶏の大群が!」
「何だって!?」
「え、ええっ!?」
その声に、未だ眠っていたアンバーは飛び起き、朝食の支度をしていたルビーは脅えて硬直した。
「数え切れぬ鶏が此処へ向かってきておる!我等は一体どうすれば…!」
「俺に任せとけ!」
血の気の多いアンバーは、颯爽と自分のコートを羽織り、武器を手に外へと駆け出てしまった。
ルビーはというと、腰をぬかしてへたりこんでしまっている。
「ルビー、我は助けを呼んでくる!それまで持ちこたえるが良い!」
エメラルドは、村の人の助力を得ようと家を出て鶏の大群とは反対に走った。
さて、外へ出て向かってくる鶏の大群と対峙したアンバーは、その想像を絶する数の多さに言葉を失った。
しかし退くことはできぬと自らを戒め、すぐそこに迫った鶏たちに背を向けることはしなかった。
家の中のルビーは逃げることも出来ずに、泣きそうな顔で窓の外を見ていた。
みしっ、と、家が鈍い音をたてる。
「ひっ!」
小さく悲鳴を上げるルビーの視界が、真っ白に染まった。
 
エメラルドが村人達を連れて戻ってくると、家のあった場所には頂上が見えないほど高い、白い山が聳えていた。
数えようとしたならば気が遠くなる程の鶏が重なって、山を築いておったのだ。
数日後、鶏の山から助け出されたアンバーとルビーは鶏への恐怖が消えず、鶏肉を口にすることすら出来なくなってしまったそうな……


「……いや、だからさ」
王の近衛騎士、アンバー・ラルジァリィは呻く。
「お前の話はもう何処に突っ込んで良いか解らねえしルビーは泣かすし、大体何でそこに俺の名前使うんだよ!」
「馴染みのある名のほうが、物語を理解しやすいと思ってな」
平然と返すエメラルド・ローレッツィ。
ルビー・ラングデルドは服で涙を拭っている。
「どんな話かと思って聞いてれば前回の続きだし、何で俺とルビーだけ酷い目にあってんだよ!」
「解らぬのか…これは勇気を持ちすぎて無謀な行いをしても、逆に勇気が無く臆病でも物事は上手くいかぬ、つまり何事も中庸が大切という“ヴェルファ”の逸話であるぞ」
「にわとり、やっぱりこわい……」
すっかり脅えてしまったルビーが、アンバーの服の裾を引く。
どうするんだよ、とでも言うようにアンバーがエメラルドを見た。
「ルビー…」
エメラルドはかがみ、ルビーの頭を撫でてやる。
「もし主がそのような事態に陥ったら、迷わず我かアンバーを呼べば良いということだ、解るな?」
アンバーは、何か言い返す気力も失せて溜息をついた。

End


水琴さんより、「ヴェルファの逸話」というリクエストを頂いて書きました。
水琴さん、本当に遅くなってすみません!折角リクエストして下さったのに…
「ヴェルファの逸話」ということで、本編1話の鶏の話の続編です。
ギャグを目指した…んですが、阿呆ですね!(苦笑)

2004.12.31