1・愚か者の結論

――――全て、終わらせよう。
扉の前だけが別の世界であるかのように、空気が冷たい。
扉の向こうは一体何度だろう。そんなことをふと思う。
立ったまま、どれだけ時が流れたのか。
十数年の隔たりは静かに、そして確かにそこに存在している。
始まりは彼女だった。
だが、それを深めたのは自分自身に他ならない。
自分自身と、扉の向こうにいる――
彼に、伝えたいことがある。
いつか一緒に彼女に会いに行こう、と。
ただ、それだけでいい。
きっとそこから何かが動く。
失われたものは決して戻らないが、新しい何かが。
――だから全て、終わらせよう。



彼は深く息を吐いた。
呉須色の短い髪に、水晶色の瞳。
一歩、その足が動いた。黒いローブの裾が揺れる。
右手が重々しい扉に触れ――
扉を叩く音が、廊下と室内に響く。



「うにゅー」
言いながら、淡い黄色の髪の女は机に突っ伏した。
長閑な昼下がりだった。窓から見える景色にも人影はまばらだ。
顔に当たる日差しの眩しさに、彼女は目を細める。
「大丈夫だと思うよ。四葉のことだからね」
窓際の男が言った。
宝石をそのまま糸へ加工したかのような、美しい真紅の長髪。
「そう、なんですけど、ね ……」
彼女は顔を上げて遠くの空を見つめる。
遙か遠い地――鳳梭。その姿は見えないが。
そうしているうちにも、眠気が襲ってくる。
「んー」
意味不明なことを言った彼女を見て、彼は笑った。
「まぁ、気持ちは解るけどね。ただ…」
とたんに、深妙な面持ちになる男。
それは、誰かが死んだのではないかと相手に思わせるような、そんな表情。
だが、彼女は動じない。
「四葉と駿模さんがどんぱち始めたら、鳳梭と魔法学校って終わりだなー、なんて」
「全然関係ないじゃないですか。不吉なこと言わないで下さい」
彼女は体を起こし、強く言った。
彼は、弱く笑った。