Epilogue

――――迎えに来たんだ。
でも、少しだけ待ってくれないか?
色々あって、ちょっと疲れてるから休みたいんだ。
ほんの、少しでいい。

“消えていく”っていう感じはこんなものかもしれない。
何をしていたのかが良く解らないんだ。
誰か教えて?思い出せない。
“替わる”瞬間に似てる――――誰と、何と変わる、って?
こんな、馬鹿みたいな状態。
どうせ、あいつらはまた笑いとばすんだろうなって、思う。
あいつら。
誰だろう。
何だろう、耳につけたピアスが痛い。
『風が止まると、“ヒト”は寂しいようだから』
誰か言ってたっけ、そんなこと。
止まるわけないだろ。だって、世界のどこかで必ず吹いてるんだから。
現に、今も、こうやって。
『生きて。もっと話したい』
生きてるって…多分。
話したいって、そんなことを言われても、俺はどうすればいい?
『人から好かれてるんだから』
解る訳ないだろ、そんなこと。自分でそう思ってたら馬鹿みたいだ。
その、“人”って誰だよ、大体。
『命令だ、必ず帰ってきなさい』
命令するの嫌いなくせに、よく言うよ。…俺、守れてないのか?
無理して言わなくたって、ちゃんと解ってる。言われる方が恥ずかしいよ、何か。
『我の相棒は、主だけだ』
恥ずかしげも無く、よく言えるよなお前。
俺だって、そう思ってるよ。
俺を裏切った昔の親友とは違うって、ちゃんと解ってる。
言えないだけ。
どうしても、言えなくて。
その言葉が本気で嬉しかったなんていったら、どうせ笑うんだろ?
ああ、でも、本気で嬉しかったんだ、本当は。
どうしても言えなかった、けど。
もう一度、同じように迎えてくれたら。
そうしたら、その時は、きっと。
『一緒に、生きよう』
アイツが最後にノートに書いた一言。
そうできたらいい、ってずっと思ってた。
どちらか、じゃなく、どちらも。
一緒に、これからも居られたら――
『ここに、いていい?』
当たり前のこと聞くなって。なあ、何で泣いてるんだよ。
だから、俺が。

――――ああ、そうだ。迎えに来たんだ。
…もう大丈夫。十分すぎるぐらい休んだから。


大きな金の瞳の中に、自分の顔を見た。
“グリート”の長がすぐ近くでこっちを見ている。
翡翠色の目と琥珀色の目。俺が、此処に、居る。
最初みたいに挑戦的じゃないから、認めてくれたんだろう。“グリート”と腕試し連戦したかいがあって。
小さな赤竜が飛んできた。“グリート”の長そっくりの毛並み。
綺麗な黄金の瞳が、親と良く似てると思った。
真っ直ぐ飛んでくる彼女を、抱きとめる。

「――――帰ろう、ルビィ」

RED CROSS End
2005.10.01