褪せることの無いあの日の色は、痛みを伴い幾度も鮮やかに。
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塔からの仄暗い明かりに照らされたその紅は、まるで炎のようだった。
「ねぇ、エメラルド、このお花はなに?」
赤髪の少女が、背の高い、風変わりな衣装の剣士の袖を引いた。
「…曼珠沙華、だ」
男は答える。
城の雰囲気にそぐわぬそれは、彼の故郷に咲く花であり、彼の妹がこの花壇で栽培したものに違いなかった。
炎の如き花弁が風に揺れる。
その紅い色が、彼に花嵐の記憶を蘇らせた。
夜の闇、月、銀の刃、獣の咆吼。
そして散る、紅。
血色に染まった何より美しい桜のヴィジョンが消えることは無い。
「まんじゅしゃげ、きれいだね」
あの日の花嵐を掻き消したのは、呟かれた言葉。
見下ろすと、花を見つめる笑顔があった。
「一本ぐらいなら、あやつも摘んでも怒らぬだろう」
「ほんとっ!?」
彼が言ってやると、少女はそっと、一輪の花を手に収めた。
「帰ろっ、エメラルド!」
咲く、笑顔。
少女の手にある炎は、夜闇を照らす明かりに見えた。
遠くない未来、摘み取られたその華も朽ち果て散りゆくのだろう。
――色に重ねた、痛みと共に。
End
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