双剣の騎士 結末

ふと思い立って、このページを作りました。
本編のあの終わり方でお話を切ってしまうと、「救われない話」だったと思います。
このお話の結末には、「幸せ」ではないけれど、「救い」はあるのです。

「双剣の騎士」以降、Act1から始まるお話は戦争が激化した2年後の出来事です。
17歳になった黄樹は「立派な」騎士団長の身分にあります。
感情を押し殺したというよりは何処かへ落としてしまったという方が正しい、「人形」のような青年。
持ち前の実力から不満を言う者さえいないものの、紺碧を除く騎士達からは恐怖に似た感情を持たれていました。
自分の未熟さを刻みつけるために。
李稀を殺してしまったことを忘れないために。
黄樹は右手の傷が塞がりかける度に再び傷を付けるという行為を繰り返します。
きつく巻いた包帯の下で、誰にも気付かれることなく。

そんな彼の世界が変わり始めるのは、隣国へ出向いていた緑野が連れてきた少女との出会いからです。
真白という名のその少女は、李稀が西支部に居た頃に親しくしていた者でした。
彼女は、本部に居た李稀が自分に宛てた手紙を黄樹に持ってきたのです。
手紙に書かれていたのは彼やその家族のことばかり。
同じ魔剣を持つ黄樹にずっと出逢いたかったこと。
逢うことが出来て何より嬉しいこと。
過ごした日々の他愛ない出来事。
そして、「才能」で括られない黄樹の「努力」を見てきたこと。
そんな風に黄樹を大好きだった李稀が、今の黄樹の状態を望むはずがない、と、黄樹の手の傷に気付いた真白は言います。
「関係ない」、黄樹が返すことが出来たのはその一言。
彼女がその場を去ってから手紙を読み始めた黄樹は、損傷の激しい一枚の封筒に目を止めます。
それは、「呪い」を受けた彼が書いた最後の手紙でした。
彼独特の軽いノリで書かれたものではなく、文面を正した真剣な手紙。
それは真白と、そして黄樹に宛てられていました。



    『死を目前に、君に最後の手紙を書く。
    驚かないでほしい。“呪い”を受けてしまったのだから仕方のないことだ。
    文章を正しているのは、これを遺書ととってほしいこともある。
    これから書くことは、君と、騎士団に居る最愛の親友への言葉だ。
    彼と君は良く似ている。他者を思いやるあまり、自身を抑えてしまうような所が。
    その優しさは大切なものではあっても、それだけに縛られてほしくはない。
    ただ思うのは、思うままに生きることも必要だと解ってほしいということ。
    1人の“人間”である限り、君たちだけが重い責務を負う必要はない。助力を与えてくれる者は周囲にいるはずだ。
    そのことに気が付いてほしい。他者を頼るのは決して怠惰ではないのだから。
    そして、もし、できるならば、私を覚えていてほしい。それは、私の死を重く受け取るということではない。
    忘れないでほしい、ということ。私という人間がいたことを。
    誰の記憶にも残らないということが、人間にとって最も悲しいことであると思う。
    時々でいい、思い出してほしい。
    それから、真白。戦争が終わった後でいい、もし彼に会う機会があればこの手紙を見せてほしい。
    勝手な物言いのようで申し訳ない。
    最後に、私は、君たちが幸せになることを願う。
    大好きな人達に送る。真白、そして黄樹へ
    李稀』



何か、が、黄樹の中で動いたのはこの手紙を読んだ後でした。
それからしばらくして、敵国へ攻め込む最後の戦争へ向かう時がやってきました。
途中、黄樹は魔導士としての力故に囚われて搬送される所だった隣国の第二王女、ユーグリアを助けます。
自分の身代わりに死んでしまった友人の死を悼みながらも、必死に前を向こうとする彼女。
そんな彼女と行動をともにする中で、少しずつ黄樹も前を向き始めます。
そして迎えた最後の戦いの時。
機械大国の鉄壁の防御を崩した瞬間に、黄樹は背後からの不意打ちに倒れます。
右胸に突き刺さった銀の剣。
それは、李稀を失ったあの瞬間に良く似ていました。

そして、黄樹が目を覚ましたのは騎士団本部でした。
黄樹は紺碧から戦争勝利の事実を告げられます。
「これからも傍で支えて欲しい」、第二の父親のような彼に、黄樹はそう頼みました。
深いながらも、僅かに急所を逸れた刃。
しかし明らかに致命傷であった傷を治したのは魔術でした。
黄樹は自分の右手の異変に気付きます。
右手の甲にある、忘れたくても忘れられない紋章。
“黒百合”。
「黒百合」の花言葉は「呪い」と「愛」。贈る人の気持ちによって意味も違ってくるそうです。
それと同じように、その魔術も「呪い」と「癒し」の両極を持っていました。
魔力の強い王族に生まれたユーグリアが、必死の思いで黄樹にかけた魔術でした。
皮肉にも、黄樹は“黒百合”のおかげで一命をとりとめたということになります。
気付くと傍らで眠っていたユーグリア。彼女も無事であったことに黄樹は安堵します。

「癒し」の“黒百合”は、術をかけられた者の傷が癒えるまで続きます。
しかし黄樹の右手に深く刻まれた傷跡が消えることはなく、“黒百合”も消えることがないでしょう。
自分が李稀を大好きだったこと。
李稀が自分を好きでいてくれたこと。
黄樹はそのことだけをようやく、素直に受け止めます。
そして、無意識に弟に笑いかけました。
――いつでも笑っていた親友のように。



黄樹の物語はこういう「結末」を迎えています。
決して、「幸せ」ではないと思います。
彼の「幸せ」は恐らく、李稀とともに騎士として生きることだったでしょう。
「戦争勝利」という「結末」で、国としてはハッピーエンドです。
ただし黄樹や、夫を失った紫杏(シリーズ最終話では、墓の前でようやく涙を流すシーンがありました)など、決して「幸せ」で終われなかった人達が沢山居ました。
そんな物語の一部分が、この「双剣の騎士」なのです。

このシリーズ(「大陸時事録」といいます)自体をサイトに掲載することはないと思います。(キャラクターは紹介したいと思っておりますが)
上の手紙文に見られるように、書いた時期があまりにも古く、文章が恥ずかしいという点が第一。
練り直すよりは他の物語を書きたいというのが第二。
そして第三…実は恋愛要素が多すぎるのです…!
書くのが苦手なもので、こう、いたたまれない王道感がたまらず切ないのです…(意味不明)
勿論、読むのは好きなんです!騎士がらみ恋愛…v
上で少し匂わせましたが、黄樹とユーグリアの関係もそうです。
騎士団長と隣国の第二王女。
明らかに相思相愛でしたが黄樹の方が突き放しました。(読んで下さった友人に「そこはもっと突っ走れよ黄樹!」と言われました・笑)

そんなこんなでこんな話です。
こんな所までお付き合い下さってありがとうございました!