4・しあわせのかたち

白銀の雪がしんしんと降っている。
音もなく、ただひそやかに。
純白に染まった校庭で生徒たちが何かしているのが見える。
雪玉を互いにぶつけ合っている者、大きな雪玉で像を作る者。
仕事が片付いたら混ざろうか、そんなことを考える。
壁の時計が時を刻んでいく。
小刻みに、ただひっそりと。
そういえば、本を買ったのだ。それを読むのは夜でもいい。
背後で扉の開く音がするが、入ってくるのは限られている。
「お帰り、ナズナ。買い出しご苦労さん」
言ってから振り向いた窓際の瀧は、目を見開いて彼を凝視した。
「…俺はナズナではないが」
淡い青色――どこか無機質さを感じる青色の短髪。水晶のような緑眼がはっきりと見える整った顔立ちは、少し冷たい。
だが、それが彼の全てではないことを瀧は知っている。
「四葉!!何…」
「この4か月間、鳳梭に関わる諸々について父の指導を受けつつ、正教員の資格をとる勉強をし、とるべくしてとった。まだ何か必要か?」
「…は、いや、え?」
「ちなみに鳳梭についての詳しい資料や最新情報は父が随時送ってくれるらしい。父の1日でも長い息災を祈っているところだが」
「そうじゃなくて!」
瀧は四葉に詰め寄った。
「どうしたんだ四葉。君は鳳梭に戻ったんじゃないのか?」
「戻って、また戻ってきたが」
「…どうして」
「瀧、俺の夢を教えてやる。教師になることだった」
「君なら鳳梭の魔法学校でだって働けるだろう?レベルの高い…」
「そうしなければいけない訳じゃない」
四葉は瀧の横を通り過ぎ、窓の外を見下ろす。
先程大勢いたはずの生徒たちは1人残らず消えていたが。
「飛竜の招喚などという高度なものを使いこなすお前がここにいるのと理由は大差ないと思ったんだがな」
「…梨真のように、こういう場所にだって強い魔力を持っている子供はいる。自分で気付かずに、自分の魔法で死んでしまう子供もね。僕はそういう子供を助けたいと」
「俺がそう思うのはおかしいか」
「…そんなことはないと思うよ」
四葉は瀧に向けて始めて笑顔を見せた。とは言っても表情に大した差はないが。
そしてすぐ真顔に戻った四葉は言う。
「…実は俺は不採用だったりするか?」
「そんな訳ないじゃないか」
しばらくぶりの自分の椅子に腰掛ける四葉。
「…そういえば」
彼は呟く。
「来る途中生徒を見かけたが、走り去っていった」
「…ふぅん」
窓を開けると冬の風が入ってきた。そこから顔を出し、見回してから瀧は窓を閉める。
ナズナが戻ってくるのが見えた。
「俺は忘れられたのか嫌われたのか少し気になったんだが」
「いや、多分10秒後ぐらいに生徒たちがここへ押し寄せてくるよ」
遠くから足音が聞こえてくる。確からしい。
何ともなしに、買った本を手にとって瀧は思った。
行商の異大陸の青年は少しだけ留まっていくらしい。
一度見たら忘れられない程美しい白銀の髪と、深い青色――まるで夜空のような色の瞳だった。横には美しい女性がいた。彼の連れだろう。
ぜひ生徒たちに異大陸の話をしてやってほしいと頼むと、快く引き受けてくれた。
明日、彼に会ったら四葉はどんな顔をするだろうか。異大陸に興味があったようだから。
瀧が戸に目をやると、勢いよく開いた。
「――――先生!!」
始業鐘の音が遠く、高く響き渡る――

End