White Day Special

人で賑わう街。可愛らしい製菓店。色とりどりの特設コーナー。
その、ある意味『異世界』とも言える空間に、彼――ロードナイト・カイトはいた…。


† White Day Special †



「…あれ、ロード?どうしたんだ、こんな所で…」
聞き慣れた同僚の声が、雑踏を掻き分けて近付いてくる。
人込みから現れたのは、何故か同じ日にオフになったらしい聖騎士、ジェイド・アンティゼノだった。
「ジェイド…あの………いや…」
何かを言いかけて、やめる。彼は、手の中にある可愛らしいピンクのラッピングを施された包みを睨んでいる…。
「何か…鬼気迫っている感じがするのは、気のせいか…?」
全くその通りで、普段は覆面に隠れている表情は険しく、眉間にしわまで寄っている。
やがて、彼は何かを決心したように顔を上げた。
「ジェイド…今、急いでいるか…?」
「いや、別に?今日はただ散歩に来ただけだから…」
本当はファリアに何かプレゼントはないかと探しに来たのだが…と、そこまで考えて思い至る。
「そうか、ホワイトデー!ユナにプレゼントか?」
「ああ…。一ヶ月前、三倍返しを強せ…いや、楽しみにしていると言われてな…」
「ふふ…それで、何を贈ったらいいのか迷っているんだ?」
「…どれも同じように見えてしまって…選ぶのを手伝ってくれないか?」
「喜んで。…ところで、何で三倍返しなんだ?ユナも案外控えめなんだなぁ…」
「……」
三倍返しで控えめだと言うなら、彼女は彼女の天使に何倍で返すつもりなのだろうか…ロードは、敢えて考えないことにした。
妹がまだ普通で良かったと思いつつ…。


夕方、もう空も暗くなる頃に、二人の騎士は帰城した。
あれから散々色々な店を巡って、二人とも山ほどの――ロードは、菓子類とぬいぐるみなどなど、ジェイドは、クッキーの詰め合わせと天使に似合いそうな服飾品の類をたくさん――抱えている。
ジェイドは白亜塔に直行するらしい。
「じゃあロード、ユナに宜しくな。」
「あぁ、今日は助かった…これで安心だ…。また明日。」

…こうして、ウィルベルグのホワイトデーは、平和に幕を閉じる…。
しかし、こういうイベント物は、後日のほうが怖いものなのだ。
翌日、某双子の侍従侍女の働きにより、『週刊ウィルベルグ号外』は、明らかに隠し撮りのロードと可愛いお菓子屋の写真がでかでかと表紙を飾り、さらにはジェイドとの『らぶらぶデート疑惑』の噂までもがまことしやかにささやかれていたとか…。

そして当のロードナイトはというと…。
しばらくの間、主にジェイドのファンから送られてくる、居心地の悪くなる視線に耐えなければならなかったという…。
侮りがたし、双子の力…。彼は、改めて情報の怖さを実感したそうな。

End


琳さんがホワイトデーに送って下さった小説です!
バレンタインデーに頂いたイラストのその後!
妹の愛を貰ったお兄ちゃんは大変です…!!(笑)
さりげなく男前なジェイドが素敵!
ファリアからの贈り物、相当気合いがこもっていたんだろうなと…お返しが凄まじくなるのも頷けます!
そしてやらかしてくれますね双子!
ファンシープレゼントとロードなんていうおいしいネタを見逃す筈がありません!
琳さん、凄く楽しい小説をありがとうございました!

2006.03.16