Trick or Treat

秋も深まり、既に辺りは薄暗い。
道行く人も、寒そうに身を縮こまらせる。
風の冷たさに、はポケットに手を入れた。
左には家の鍵、右には飴玉。
動かす足に合わせて、其々が手に当たる。
は家路を急ぐ。

其れに気付いたのは、人通りの無い路地に入った時だった。
足音が、追ってきている。
が足を速めれば、後ろの足音も早くなる。
帰り道が偶然一緒の人、とは考え辛い。
振り返る勇気も無く、早足で歩く事しか出来ない。
走れば、一気に距離を詰められそうな気がした。
薄暗く、他に人の居ない路地は、不安を煽る。
酷く長く感じられたが、恐らく其れは数分の出来事。
家が、見えて。少しだけ、気が緩んだ。
足音が早まった事に気付けなかった。
左手と一緒に鍵を出す。
一瞬の、隙。
背後から伸びて来た手が、を引き寄せた。
強い力で突然抱き締められ、跳ね上がる鼓動。
悲鳴を、上げる事も出来ず。

「Trick or Treat」

耳元で、囁かれた声。
安堵に、力が抜けた。
其の声で、直ぐに誰かわかった。
「やだ、もう」
後ろから回された手を、軽く叩く。
気恥ずかしさと嬉しさが混ざりあう。
こんな事するような人じゃないから、余計に。
背後で、笑う気配。
ごめん、と。
囁かれた声に、鼓動は落ち着く暇も無く。

「あのね、今ね、お菓子持って無いの」
は小さく笑う。
ポケットの中。飴玉、無かった事。
「私、ジェイドにだったらイタズラされても良いよ」

End


蒼さんが2010年のハロウィンに送って下さいました!
頂いたドリーム小説5本目、とうとう女性キャラクター…なのに、この甘い空気です!
相当気を許していないとこんな悪戯できないだろうなあ、という彼女なので、大変貴重な関係性…!
何故か自然にハグもしくはキスのシーンが見えるような気がしてしまいました。プリンス!
こうやって書いて頂くと、自分のキャラでも恋愛要素持たせられるのになあ!と思います!(笑)
蒼さん、ありがとうございました!

2011.06.13