何も残せないかもしれないけど、貴方と居たのは本当の事だから。

ねえ、もう何も見えない。

「此処に、居るの?」
手を伸ばして、確かめる。
「…あったかい」
触れたのは、大きな手。
冷たくなっていく指先に、其れはとても心地良くて。
「……」
「大丈夫、だよ」
感覚の無くなっていく手で、此の暖かな手を握る。
「…済まぬ」
「謝ら、ないで」
優しく、握り返された手。
冷たい手は、体温を奪ってしまう。
「エメ、ラルド…止まっ…ちゃ、だめだ…よ」
急速に、全てが失われていく。
「前、進ん…で…」
思う様に、声も出せない。
手にも、力が入らない。

ねぇ、貴方は其処に居る?

「…!!」
必死な其の声も、遠い。
繋いだ手の温りも、もう感じない。
それでも。
「でも……いま………いま、だけ…は……ここに、いて」
其処に居て、欲しくて。
最期の、願い。


――あとすこしだけだから。

End


蒼さんにリクエストを聞いて頂いて「エメラルド」と答えたら。
なんと、ドリームも合わせて小説2本頂いてしまいました!
いわゆる死にネタですが、彼だとやけにしっくりくるといいますか…!
ヒロインは里の女の子なんだろうかと、色々想像が膨らみます。
彼は最後の最後まで傍に居る奴だと思います。
蒼さん、ありがとうございました!

2005.07.05