Please Call me ―君の声で此の名前を聞かせて―

「なぁ、エラズル」
其の男は、馴れ馴れしく名を。
「お前にとって名前って何?」
真意の読めない、薄っぺらい笑顔が。
感情をも、乱す。
「物を表すただの記号でしょう、名前なんて」
答える声にも、苛立ちが混じる。
「俺は、モノ?」
巫山戯ている。
大仰に首を傾げてまでの、問い掛け。
「お前も?」
「えぇ、そうですね」
吐き捨てる様に、告げれば。
其の男は、アンバー・ラルジァリィは。
寂しそうに、笑った。

別れた後も。
会わなかった此の二日の間も。
其の、笑顔が、離れなくて。

ただ、乱され続けるペース。

「エラズル」
相変わらず、馴れ馴れしく。
「お前は、モノなんかじゃない」
唐突とも言える、タイミングで。
「何ですか、いきなり」
「名前ってのは、誰かに呼んで貰う為に在るんだと思う。だから」
そう言って、見せた笑顔は。
何時もの様に薄っぺらでは無く。
「呼んで貰える限り、お前はモノなんかじゃなくて、エラズル」
それでも。
「僕は、モノですよ」
其の言葉も、笑顔も、受け容れる事など。

「エラズル」
何度目、だろうか。
ただの記号でしかない此の名を、呼ばれるのは。
「俺じゃ、其の誰かになれない?」
「何、を?」
「俺が、お前を呼ぶ」
「……貴方、は…」
言葉が、続かない。
「届いてるんだろ?」
笑顔は、変わっていないはずなのに。
伝わる、寂寥。

届かない辛さを、知っている?

「もう行かなきゃないんだけど、一つだけ」
其の寂寥は、きっと一瞬。
「モノなんて、言うなよ」
もう、背を向けていて。
「お前はモノなんかじゃない」
手を、伸ばしても。
届かない。
近くて、遠い距離。
それでも。
「アンバー!!」
此の、声は。
「届いて、いるんですよね?」
振り向き、向けられる驚きの表情。
「僕の此の声が届いているのなら、貴方の声だって、届いています」
其れは直ぐに、明るい表情に変わって。

もし、届かない辛さを知っていると言うのならば。
もう、そんな思いはしなくても済むように。

貴方を呼ぶことで、此の声は届いている、と。

End


蒼さんがリクエストを書いて下さるというので、今度は「アンバーで何か」とお願いしました。
アンバーとエラズル友情編…!
うわわ、ありがとうございます!何だかラズが可愛くて仕方ないです!!
エラズルの心情も、アンバーの影の部分も、凄くイメージ通りです!!
ありがとうございました…!!!

2005.09.08